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【イベントレポート】『スタートアップ支援の最前線 ~ベンチャー企業を支えるVC×銀行出身者 特別対談〜』を開催しました!

2024年4月17日、YazawaVentures矢澤麻里子さん、三菱UFJキャピタル田口順一さん、そしてSEVENRICH Accounting稲葉大二郎さんをお呼びし、特別対談を行いました。

今回は、現在のスタートアップ支援の最前線を担うベンチャーキャピタル(VC)×銀行出身者それぞれの視点から語っていただきました。

「VCと銀行ではファイナンス支援はどう違うのか?」
「それぞれのキャリアパスは?」
「働く場合の適性の違いは?」

などをテーマに、パネルディスカッション形式で深掘りしていきました。


矢澤 麻里子 氏
Yazawa Ventures 代表取締役/ジェネラルパートナー
ニューヨーク州立大学を卒業後、BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・及び個人与信管理モデルの構築などに携わる。その後サムライインキュベートにて、スタートアップ70社以上の出資、バリューアップ・イグジットを経験した後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げ及びCOOに就任し、150社以上のグローバルレベルのスタートアップを採択・支援。出産を経て、2020年Yazawa Venturesとして独立。

 田口 順一 氏
三菱UFJキャピタル キャピタリスト/理事 投資第二部長
監査法人系コンサルティング会社を経て、2001年よりダイヤモンドキャピタル(現三菱UFJキャピタル)にてキャピタリストとしてベンチャー投資に従事。シードからミドル・レイターまで幅広いステージの企業に投資し、フォロー投資だけでなくリード投資や追加投資も積極的に行っている。好きな投資領域は、X-Tech、SaaS、コンシューマーサービス等。投資先企業への支援は、ハンズオンとハンズオフの中間的な「ハンズイフ」というスタンスで、それぞれのニーズに合わせて柔軟に対応している。

稲葉 大二郎 氏
株式会社SEVENRICH Accounting 融資事業部責任者
メガバンクで7年半勤務後、デロイトトーマツグループ、ベンチャー企業2社で財務人事領域の責任者を経て、2022年SEVENRICH Accountingに融資事業部責任者としてジョイン。クライアントや仲間にGiveし続けて、出会いを楽しみ続ける人生を送りたい。座右の銘は、「今しかない、俺しかいない」

銀行とVCの違いって?

——では早速、銀行とVCの文化の違いについて聞いていきたいなと思います。

三菱UFJキャピタル・田口(以下、田口):皆様ご存じかと思いますが、銀行は融資を、VCは投資を行う機関で、ファイナンスの性質の違いがカルチャーにも出ています。

銀行は10社にお金を貸し1社が成功する…というVCのビジネスモデルのような成功確率では成り立ちませんので回収の蓋然性を審査しますが、VCは良いところ、成長性を評価しディスカッションをしていきます。

Yazawa Ventures・矢澤(以下、矢澤):田口さんがおっしゃった通り、銀行はスタートアップに対して、確実に回収できるか“判断”を下しています。その流れを汲んで、銀行系VCも比較的保守的な出資をするところが多い印象です。ただ、最近の銀行系VCは田口さんのいらっしゃる三菱UFJキャピタルのように果敢に出資されているところもあって、様々な色があるなと感じています。

コーポレート系のVCは、自分たちの事業と接点がありシナジーを生めるか、フィナンシャルリターンだけではなく事業リターンがあるかを意識されているなと思います。組織の作り方も親会社から継承されているケースが多く、親会社からの出向の方も多いイメージがあります。

独立系VCは会社によってカラーが大きく異なるため、一口に「VCだからこう」というのはない印象です。

田口:ひとつ付け加えるとすると、銀行は競合同士の顔が見えるような関係性は業務の特性上あまりないと思いますが、VCの場合、そもそもお互いが協力して出資先の成長を支援していく考え方が一般的なので、キャピタリストはお互いの顔を見れば名前がわかるくらいの関係性があると思います。もちろん競争は当然ながらありますが、一方で握手をしながら一方で競い合い、切磋琢磨し合うような風潮があると思います。

——SEVENRICH Accounting(以下、セブンリッチ)の融資事業部から見た銀行とVCの文化の違いはいかがでしょうか?

セブンリッチ・稲葉(以下、稲葉):銀行には、上から降りてきた目標に対して着実に仕事をしていく方が多くいらっしゃる印象があります。一方で我々は、毎日のようにスタートアップの経営者と話をし、その企業のいいところを見つける作業をしています。仮にA銀行から融資を受けるのは無理かもしれないとなったとしても、B銀行やC銀行なら協力してもらえないか、どんなアプローチが適切なのかなどできる方法を考える。そういう視点やマインドはVCと近いのかもしれません。

銀行とVCのキャリアステップの違い

——ではここからは、銀行とVCのキャリアステップの違いに迫ります。銀行は年功序列、VCはチャレンジングなアサインが行われるイメージがありますが、実際のところはどうなんでしょうか?

稲葉:銀行も最近は人事評価制度が変わり始めていますが、いまも年功序列の風潮は強いですね。典型的な例を挙げると、「入社何年目でどの役職まで上がれるか」は同期の間で頻繁に話題になります。私が在籍していたころの話ですが、異動や昇格の時期になると、皆でイントラに掲載される人事情報を3~4時間かけて見たりもしました(笑)。

矢澤:独立系VCは、綿密に計算してキャリアステップを設計している会社もあれば、ざっくりなところもあります。タイトル(肩書)だけではなく収入の決まり方にも違いがあって、

  • ベースの給与が高く、出資先がExitしたあとの成功報酬は低い

  • ベースの給与は低く、出資先がExitしたあとの成功報酬は高い

のように違いがあります。

支援の違い

——ここからは、銀行とVCの支援内容の違いについてお聞きしたいです。ファイナンス面での違いは皆さん理解されていると思うので、それ以外の側面について聞かせていただけると嬉しいです。

矢澤:VCは経営に深く関わる「ハンズオン」、逆に投資先のマネジメントに一任する「ハンズオフ」の大きく2つのスタイルを取ります。ただし、厳密に何をもってハンズオン・ハンズオフなのかは難しい。ハンズオンだと言いながらあまり経営に関しないVCもあれば、ハンズオフと言いながらも多面的なサポートをしている会社もあります。

多くのVCに共通しているのは、採用や仲間づくりのサポートをしていることでしょうか。銀行系VCの場合はそれに加えて企業とのつながりが多いので、営業サポートのような動きもしてくれる印象があります。

田口:おっしゃる通りで、銀行系VCは銀行のネットワークを使って支援をしていきます。そのため、顧客の同意が前提ですが、たとえばバーティカルSaaSのスタートアップが「建築業界に入り込みたい」「ホテルチェーンを紹介してほしい」といったニーズを持っていた場合、その業種を紹介できる、というのは銀行系VCの強みのひとつと言えます。

稲葉:わたしたちの支援は、融資を成功させるために、銀行に今あるルールを活用し、スタートアップと一緒に“作戦を立てていく”ようなものです。僕らの組織は元銀行員が中心となって組成されているので、お金を貸す側がどんなルールで意思決定をしているのかの知見が集まっています。

たとえば、どこかの銀行に自力でアタックして融資を断られた人が相談に来たとしたら、どこの銀行でどんな話をされたのかヒアリングしたうえで、すぐに適切な銀行をつなぎ、「この銀行はこういう資料があれば稟議が通りやすいから、ルールを知り、それに適したものを携えてからドアノックしましょう」とお伝えします。

時には、一緒に事業計画を立てたり、稟議を通す際にこういう質問が来るはずだから、そのときにはこう答えてほしい、という資料を作成したりもします。

矢澤:おふたりに伺いたいのですが、ご支援先の試算表なども見ているのですか?

田口:ステージによりますね。シードラウンドの場合は、売上がゼロのケースもざらで、そのフェーズの試算表の支出は「人件費+サーバーコスト」程度なのでそこまで詳しく見ていないケースもあると思います。一方シリーズA以降でBSにも注意しなければいけないスタートアップの場合は、確認しています。

稲葉:わたしも、シードラウンドの場合試算表云々でわかることは少ないと思うので、あまり注視はしていません。ですが、「5000万円必要だから融資してください!」と熱烈なプレゼンをしている人の提出する事業計画と今までの月次の試算表の数字があまりに違っていたら、融資をするほうはなかなか信じがたいですよね。そのために、資金使途試算表の流れから違和感がないように、という目線での確認は行っています。

矢澤:なるほど。まさにステージの違いで注視のレベルも違ってくるのかなとは思いますが、共通するのは、借り入れをしすぎていないかなど基本的なところなのかなと感じます。

——昨今の出資のトレンドはありますか?

田口:スタートアップ業界は、リーマンショックのときにひどい状況に陥りました。そこからはずっと右肩上がりの状況です。SaaSバブルがはじけた際には、想定していた通りのバリュエーションにならず次のラウンドで苦戦するというケースもありましたが、スタートアップ支援全体という視野で言うと、右肩上がりに支援者は増え、ファンドの数も金額も増えているように思いますね。

矢澤:まさにそうですね。ここ5年ほどはVCが出資する総額は3000~4000億程度でしたが、直近は1兆円近くまで上がっています。プレイヤーも増え、10年前と比べるとずいぶん資金調達はしやすくなったのではないかと。

わたしがサムライインキュベートでプレイヤーをしていた頃は、バリュエーション3000万の企業に対して500万の投資をする、そんな金額が普通でした。今は調達額が数千万に上ることもあり、日本政府の掲げる「スタートアップ育成5か年計画」が注目されていることの表れなのではないでしょうか。

——融資のトレンドはいかがでしょうか?

稲葉:ベンチャーデットはいろんなところがやりだしていますね。ベンチャーデットとは、エクイティとデットのどちらの性質も持ったもの。「保有株式シェアの希薄化を抑えながら、成長資金を確保したい」というスタートアップならではのニーズに応えるもの、といったところでしょうか。

矢澤:確かに最近ベンチャーデットは増えていますよね。昨年米地銀シリコンバレーバンクが破綻しましたが、その影響はありますか?

稲葉:話題にはなりましたが、その後もさまざまな金融機関がベンチャーデットを新設しているので、あまり影響はなく、進み続けている印象です。

銀行とVCの活躍する素質や素養の違い

——銀行とVC、それぞれで活躍できる人の素養に違いはあるのでしょうか?

田口:銀行とVC、どちらも組織ではありますがVCの方がより個人が主体的に行動出来る部分が多いので、必要な素養は違うように思います。

矢澤:VCでは個をどこまで立てられるかは重要ですね。特にVCが非常に多いアメリカでは、キャピタリストとして個が立っていないとまったくうまくいきません。旧来の日本の企業では属人化を排除しようとしますが、ことVCにおいては、結局のところ属人化させることこそが正解なのかも、と思うこともありますね。

稲葉:どんな業界から来た人だと個性を発揮しやすい、VCのカルチャーに順応しやすいのでしょう?

矢澤:どんな業界、というのは難しいのですが、自分の主張に対して自信を持てる方はVCにフィットしやすいように思いますね。周囲からさまざまなフィードバックをもらい、ときには“炎上”とも捉えられるような批判を受ける。そんな中でも、強いマインドを持ってやり続けられるかが重要だと思います。

田口:私は前職が何であっても大丈夫だと思っています。これを経験しているとVCが向いている、なんて職種はなくて、しいて言えば起業してIPOを経験した社長くらいなのですが、そんな人は一握りですからね。

あえて言うなら、自分の強みを理解し、それを生かして汗をかける人だと思います。

銀行系VC、独立系VC、資金調達支援、それぞれのやりがい

——では最後に、皆さまからそれぞれに、今のお仕事のやりがいを聞かせてください。

稲葉:銀行時代は言われたことをミスなくやる仕事が主でしたが、今はとにかくやれる方法を探す仕事になりました。たとえば「1000万円借りたい!」と言っている人に対して、「1000万なんて言わずに、もっと大きな金額を狙ってみようよ」「思い描いているより3年早くこの目標を達成していこうよ」というコミュニケーションを取れるようになったことが何より楽しいですね。

あとは、毎日スタートアップの経営者と話をするから、そのたびに彼らの夢を聞くんですよ。大小ありますが、そういう夢をたくさん聞けることにはものすごくやりがいを感じます。

田口:僕は学生のころからベンチャーキャピタリストになりたかったので、そもそもキャピタリスト以外の仕事をしたくないんですよね。だから、常にやりがい全開です(笑)。あえて挙げるとするなら、自分の応援したい起業家を応援し、一緒に仕事したい人と仕事ができるのは、本当に楽しいです。

代表とエンジニアひとりずつしかいないシードラウンドの企業に投資をし、どんどん事業が大きくなって、上場して彼らが一夜にして成功者となるのを伴走でき、また経済活性化につながり社会に良い影響も出る。投資先が困難に陥り、一緒に頭を悩ませることも多いですが、成功体験が大きなモチベーションになるから続けられています。

矢澤:前提として、わたしも田口さんと同じようにこんなに楽しい仕事はないと思っています。私はゼネラル・パートナーで、人のお金を預かっているので、増やしてお返しする責任があります。シードラウンドへの投資は回収までに時間がかかるので胃がキリキリするんですが、田口さんがいうように誰かの大きな成功に伴走できるのだから、本当に幸せですよね。

過去の体験を振り返ると、サムライインキュベートにいたときに今上場を果ている企業の0⇒1を支援できた経験は、わたしの大きな成功体験の一つです。当時、事業家としては素晴らしい代表がいて、でも事業は微妙だと思っていたんです。「事業を変えるなら投資する」と伝え、一緒にディスカッションをして、なんでも手伝って。わたしが「こういうサービスがあったらいいな」と思える事業になったので、投資を通じて自分の作りたい世界を実現できた原体験は、今でもモチベーションになっています。

質疑応答で相互コミュニケーション

パネルディスカッションの本編終了後には、参加者の方々から多くの質問が寄せられました。

・大企業が大本となるファンドが成功するためには、何をすればよいのでしょうか?
・融資を受けやすい領域や、最近ホットなトピックスについてお聞きしたいです。
・スタートアップにおいては、どのステージ・ラウンドから知財が注目されるのでしょう?

Q&Aの後は、参加者の方が気軽にゲストの方々とお話ができる交流会も開かれました。

株式会社BOXとYAZAWA Venturesは今後もVCへの転職を検討する方に向けてイベントを開催予定です。本noteおよび矢澤さんの公式X(https://twitter.com/aircom)にて随時情報を発信する予定ですので、フォローして最新情報をお待ちください。