“途方もない挑戦”を現実に。キャディ株式会社VPoE藤倉さんが語るCADDiの目指す未来
「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」――そんな言葉を企業理念に掲げ、産業の常識を変える新たな仕組みを作る会社、キャディ株式会社(以下、キャディ)。加工製造サービス「CADDi Manufacturing」、図面データ活用クラウド「CADDi Drawer」・AI見積クラウド「CADDi Quote」を提供しています。
今回お話を聞いたのはそんなキャディでVPoEを務める藤倉成太(ふじくらしげもと)さん。元Sansan株式会社でCTOを務めた藤倉さんが、なぜ次のフィールドとしてキャディを選び、どのような組織づくりを行っているのか。エンジニアのための転職支援サービス「BOX for Engineer」の事業責任者・棚橋が話を聞きました。
3領域で培ったノウハウやテクノロジーを循環させられるのがCADDiの強み
――CADDiでは、「CADDi Manufacturing」「CADDi Drawer」「CADDi Quote」とモノづくりにかかわる複数のサービスを展開しています。他社にも類似するサービスがある中で、他の企業と差別化できるポイントはどのような点ですか?
おっしゃる通り、製造業を対象にした企業・サービスは世の中にいくつもあります。わたしたちの事業のひとつである「CADDi Manufacturing」では装置の加工品を制作・納品しており、わたしたち自身も製造業者の一員です。
これまで製造の現場で働く中で、私たち自身が多くのペインを感じてきました。それをどのように解決していくべきか、という当事者の視点を「CADDi Drawer」や「CADDi Quote」にも生かし、逆に「CADDi Drawer」や「CADDi Quote」の開発で培ったノウハウやテクノロジーを「CADDi Manufacturing」にも戻して循環させられる。その点がCADDiの強みだと考えています。
――技術的な優位性はあるのでしょうか。今後グローバルで戦っていくことを考えたときの勝ち筋を教えてください。
実は私自身、グローバルで成功した景色を見たことはありません。だから偉そうなことは言えないという前提はあるのですが、「今後の展望」という視点で考えるといくつかあります。
ひとつは、「日本の技術力は世界で通用する」という意識を持ち、社内のエンジニアのレベルの底上げを意識すること。私は20年ほど前に米国・シリコンバレーで働いていたのですが、当時のシリコンバレーの技術力は追いつけないほど高いわけではないと感じました。今も、シリコンバレーで十分通用する日本人はいる。だから、必要以上に海外を恐れる必要はないと思っています。
一方で、米国は間違いなくエンジニアの技術力の“平均値”は高い。キャディの面接でも、グローバルな開発を進めていくことを基準にしながらジャッジしてます。ただそれも、誰も到達できないレベルというわけではなく、「優秀なエンジニアであればこのレベルはできているべき」という「当然」のニュアンスが少し違う――そんなイメージで、その平均値の高さが今後の事業推進にも効いてくるのではと考えています。
もうひとつは、プロダクトマネジメントの強さです。何がお客様のペインの解消につながり、売上につながり、何をすればマーケットシェアを取りに行けるのか。ビジネスサイドの企画力の強さがあれば、グローバルでも勝ちに行けるのではないかと思っています。
さらに挙げるとすれば、キャディがバーティカルSaaSである点でしょうか。ホリゾンタルSaaSの場合、クライアントになる企業サイズやドメインは様々です。クライアントが抱えているペインは抽象的には同じでも、プロダクトを使用する企業のサイズやドメインによって解決策は千差万別です。国境を越えたらもっとバリエーションが増え、レバレッジが効きにくくなる。
ですがバーティカルSaaSは、ドメインの定義が狭くて深いため、フォーカスが合わせやすく、レバレッジも効きやすいんですよね。ピンの立て方、攻め方さえわかれば、成長の速度が早い。だからこそ、プロダクトが国境を越えたときにもスピード感を持った成長が見込めると考えています。
戦略と課題を理解し、技術で解決するのがエンジニアのプロフェッショナリズム
――前職には、主力サービスのローンチから約2年後、今回はCADDi Drawerのローンチから約2年後というタイミングで入社されています。前職と現職とで、期待されている役割に変化はありましたか?
前職時は、18番目の社員、エンジニアとして入社しました。たまたま当時の組織の中では年長者で全体設計の領域が得意だったので全体を見る役割を担い、その後開発部長をしてほしい、全社も見てほしい、と機会をもらい、最終的にはCTOを努めていました。
キャディ入社時は前職の経験を生かした成果を期待されていて、SaaSビジネスを進めていくうえで開発組織はどうあるべきなのか、どんな数字を見て組織のバランスを調整するとヘルシーなのか、そのあたりが役割になると思っています。前職での15年分の経験があるからそれを存分に使いたいし、会社からもそう望まれているのかなと。
私自身がやりたいなと思っているのは、CTOの小橋に“本当にやるべきことに集中してもらうこと”。彼はオールマイティな能力を持った人ですが、事業成長やプロダクト、それに関連する技術の話をしている時がもっともパワフルでエネルギッシュ。それらを実現するために組織や育成、採用の話にも及ぶわけですが、その辺はすべて私がやるので、小橋には一番やりたいところに集中してほしいと思っています。
――藤倉さんは採用や育成にも携わっています。自社の開発メンバーに求めることは?
私の持論ですが、エンジニアリングもビジネスですから、事業に貢献するコードを書いてほしいと思うんですよね。私自身技術が好きだし、目の前のソースコードにだけ集中できたらどんなに幸せかと思うこともあります。でも、それだけでは趣味と同じ。
美しいコードを書くことも大切ですが、事業や組織がどうありたいのか、状況に合わせてどんな設計をすべきなのか、そこに思考を巡らせ、時には「オーバーエンジニアリングをしない」「技術的負債だとわかっていながらもその道を選ぶ」そんな選択をしなければいけない。それがビジネスパーソンとしてのエンジニアだと思っているし、そこから逃げちゃいけない。過去にどんなキャリアを積んできたかよりも、プロダクトビジネスに関わるうえで、ビジネスパーソンとしての判断ができるかを重視しています。
戦略を理解し、課題を特定し、それを技術でどう解決するのかを考えるのが我々のプロフェッショナリズム。解くべき課題を理解しないまま答えだけを導くことはできないと思っています。
――現在の組織に対する課題はありますか。
キャディは元々、加工製造サービス「CADDi Manufacturing」事業から始めた会社です。その中にすでにソフトエンジニアリングがあったわけですが、約2年前に図面データ活用クラウド「CADDi Drawer」に新たなチャンスを見出し、「CADDi Manufacturing」に関わっていたエンジニアは現在、「CADDi Drawer」で活躍してもらっています。とはいえふたつのエンジニアリングは性質が大きく異なるため、いろんなものが仕組化され切っていないんですよね。
たとえば、適切な目標設定と評価は組織を健全に成長させる要因のひとつですが、それをどう作り、マネージャーを中心にどう切り盛りしていくのかが整備され切っていない。整備がされていないと一つひとつのイベントに時間がかかり、効率が悪いんですよね。
今のはあくまでも一例ですが、同様にさまざまな領域の仕組みを整えることで効率化を促進でき、事業スピードも上がると考えています。
――その課題は、マネジメントをする方がいれば解消できる?
一定数リーダーが在籍しているため、人を増やすよりも、すでにいる彼らに現場をリードするための知識や武器をより多く渡していきたいと思っています。
キャディのリーダー・マネージャー陣には、サーバントリーダーシップ――つまり、部下に対して指示をするのではなく、本人に寄り添いながら主体的な行動を促し、全体を良い方向にもっていくようなリーダーシップを持った人が多いんです。
しかしながら、それだけだと太刀打ちできないシーンが必ずやってくる。サーバントリーダーシップが必要なときもあれば、コーチングが必要なときも、ティーチングが必要なときもある。事業の状況を見ながらその使い分けができるメンバーが増えると、組織がより強くなっていくように思います。
――キャディのビジネスサイドには、製造業への愛がある人が多くいる印象です。エンジニアの皆さんはいかがですか?
ビジネスサイドの方が製造業経験者は多くいます。開発サイドでも、もちろん製造業の経験があるに越したことはないのですが、それを強く求めるわけではありません。どちらかというと開発サイドには、製造業という業界そのものよりも課題解決が好きな人が多いんですよね。目の前に難しい問題が出されたときに「なんとかして解いてやりたい」と思う。CADDiの開発サイドには、そういう人が多い気がしています。
グローバル視点を持って、業界の課題解決を目指す
——今後の藤倉さんのミッションを教えてください。
私が初めて代表取締役の加藤に会ったのは2023年の夏、CADDi Drawerがローンチして1年ほどのタイミングでした。そのときに、「今のところこういう成長曲線を描いていて、ここからさらに2年でこのくらいの規模にしたい」と言われたんですよね。正直、途方も無い挑戦だと思いました。
ただ、単なる夢物語として言っているわけではなく、なぜその規模が狙えるのかという仮説が用意されていました。さらに、「CADDi Drawer」単体で拡大するシナリオもあれば、「CADDi Quate」と一緒に進めることで目指せる世界も描かれていて。それぞれの領域にペインがあるから、私たちがひとつの企業としてそのペインを解決することができれば大きな成長ができるんだという話をされました。
それを目指して事業成長を推進していくのが、私のミッションだと思っています。
——グローバル展開の勝ち筋は?
そもそも私たちがターゲットにしているドメインでは、サプライチェーンが国境を越えています。そこに対して、私たちだけ国境を超えないわけにはいかない。グローバルをやりたいとか目指したいとかの話ではなく、やらないと話にならないと思っています。また、代表取締役の加藤はコンサルとして海外の案件を多く取り扱っていましたし、小橋はアメリカで仕事をしていました。マネジメントレイヤーにも海外のバックグラウンドを持つメンバーが多く、「海外展開に向けて」と身構える人が少なく、自然にそちらを見据えられている。気持ちの準備が常にできているのは強みのひとつなのではないでしょうか。
ただ、同時に重要なのは、何の課題を解決しに行くのかという観点です。結果的に国境を越えてビジネスを成立させるでしょうし、競合に勝つ必要も出てくるでしょう。ですがそれは「手段」の話であって、「課題を解決する」ことの方が重要。戦略・戦術は後から考えられます。
加藤は今アメリカでビジネスを立ち上げていて、手ごたえを感じるような共有も受けています。日本で培ったものをアメリカでも再現させられる可能性がわかってきた、というフェーズにキャディはいます。具体的なアプローチについてはまだお話できませんが、グローバル展開を視野に入れながら、引き続き、モノづくり企業のために挑戦を続けたいと思っています。
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